小説「本日は、お日柄もよく」のあらすじをネタバレ込みで紹介します。長文感想も書いていますのでどうぞ。この物語は、言葉の持つ力に魅せられた一人の女性が、新たな道を踏み出す姿を描いた、心温まる成長の物語です。読めばきっと、あなたも言葉の魔法にかけられることでしょう。

主人公の二ノ宮こと葉は、どこにでもいる普通の会社員。彼女がひょんなことから伝説のスピーチライター久遠久美と出会い、その世界に足を踏み入れることになります。最初は戸惑いながらも、次第に言葉を紡ぐことの奥深さ、そしてそれが人の心を動かす様を目の当たりにし、こと葉自身の人生も大きく動き出すのです。

この記事では、そんな「本日は、お日柄もよく」の魅力的な物語の道のりを、少し踏み込んでお伝えします。こと葉がどのように困難を乗り越え、自分らしい言葉を見つけていくのか。そして、彼女を取り巻く個性豊かな人々との関わりの中で、何を感じ、どう変わっていくのか。物語の核心に触れる部分もありますので、結末をまだ知りたくない方はご注意くださいね。

読み終えた後、きっとあなたの心にも温かい灯がともり、大切な誰かに想いを伝えたくなるはずです。それでは、原田マハさんが紡ぐ、言葉と感動の世界へご案内いたしましょう。

小説「本日は、お日柄もよく」のあらすじ

二ノ宮こと葉は、トウタカ製菓に勤める27歳の会社員。平凡な毎日を送っていましたが、幼馴染である今川厚志の結婚式で、衝撃的な出会いを経験します。スピーチの途中で眠気に襲われ、スープ皿に顔を突っ込んでしまうという大失態。そんな彼女の前に現れたのが、伝説のスピーチライター久遠久美でした。久美は、厚志への祝辞で、その場にいた全ての人を感動させる圧巻のスピーチを披露します。

この出来事をきっかけに、こと葉は久美に興味を持ち、会社の同僚の結婚式のスピーチ原稿作成を依頼することに。しかし、久美は「コツを教えるだけ」と言い、こと葉自身に原稿を書かせます。久美の指導のもと、こと葉は初めて本格的に「言葉」と向き合い、見事なスピーチを成功させました。この経験から、こと葉は言葉の持つ力に強く惹かれ、スピーチライターの世界に足を踏み入れる決意をします。

アフター5は久遠事務所で見習いとして働くようになったこと葉。そんな中、広報戦略室への異動辞令が出ます。会社のブランドイメージを一新するプロジェクトのメンバーに抜擢されたのです。このプロジェクトの広告代理店担当者が、やり手コピーライターの和田日間足(ワダカマ)でした。彼は、こと葉のスピーチの才能を見抜き、社長に進言した人物でもありました。

こと葉の日常は一変します。会社の大きな仕事に加え、スピーチライターの見習い、さらには久美を通じて民衆党の党首・小山田次郎から選挙コンサルタントの仕事まで舞い込みます。そんな折、幼馴染の厚志が次期衆議院議員選挙に立候補することに。こと葉は、悩みながらも会社を辞め、久遠事務所で本格的にスピーチライターとしての道を歩み始めます。

厚志の選挙戦は、与党の大物議員である黒川大臣との一騎打ち。しかも、黒川陣営のスピーチライターは、あのワダカマでした。選挙戦が激化する中、厚志の妻・恵理が流産するという不幸に見舞われます。黒川陣営はこの悲劇を利用し、厚志を貶めるデマを流そうと画策。しかし、ワダカマからの情報提供と助言により、こと葉と厚志は正直に事実を訴えるスピーチで反撃。厚志は聴衆の心を掴み、見事当選を果たします。

そして4年後。こと葉は、ワダカマと結婚。二人の結婚披露宴には、厚志夫妻やその子ども、そしてアメリカから帰国した久美も駆けつけ、伝説のスピーチライターによる温かい祝辞が会場を包み込むのでした。

小説「本日は、お日柄もよく」の長文感想(ネタバレあり)

小説「本日は、お日柄もよく」を読み終えて、まず心にじんわりと広がったのは、言葉の持つ力強さと温かさでした。主人公のこと葉が、ごく普通の会社員から、人の心を動かすスピーチライターへと成長していく姿は、読んでいて本当に胸が熱くなりました。彼女のひたむきさ、そして言葉に対する真摯な姿勢が、私自身の日常や仕事に対する考え方にも、静かな問いを投げかけてくれたように思います。

物語の序盤、こと葉が幼馴染の結婚式で居眠りをしてスープに顔を突っ込んでしまう場面は、衝撃的でありながらも、どこか彼女の当時の閉塞感を象徴しているように感じました。毎日同じことの繰り返し、どこか満たされない日々。そんな彼女が、伝説のスピーチライター久遠久美と出会い、その圧倒的な言葉の力に触れた瞬間、彼女の中で何かが弾けたのでしょう。久美の言葉は、まるで魔法のように、人の心を揺さぶり、勇気を与え、そして行動へと駆り立てる。そんな「言葉のプロ」の世界に、こと葉が引き込まれていくのは自然な流れだったのかもしれません。

私が特に心を打たれたのは、こと葉が初めてスピーチ原稿を自力で書き上げる場面です。久美は手取り足取り教えるのではなく、あくまで「コツを教えるだけ」。こと葉は悩み、苦しみながらも、自分の言葉で、親友への祝福の思いを紡ぎ出します。そして、そのスピーチが成功した時の達成感と感動は、読んでいるこちらまで伝わってくるようでした。この経験が、こと葉にとって大きな自信となり、スピーチライターへの道を本格的に志すきっかけになったのだと思います。誰かに指示された通りに動くのではなく、自分の頭で考え、自分の言葉で表現することの大切さを改めて感じさせられました。

また、物語を彩る個性的な登場人物たちも魅力的でした。特に、こと葉の師となる久遠久美。彼女はまさに「かっこいい女性」そのものです。鋭い洞察力と的確なアドバイス、そして何よりも言葉に対する深い愛情と情熱。時には厳しい言葉を投げかけることもありますが、それは常にごと葉の成長を願ってのこと。彼女のような師に巡り会えたことは、こと葉にとって何よりの幸運だったのではないでしょうか。久美の過去や、彼女がなぜスピーチライターという道を選んだのか、もっと深く知りたいと思わせるような、ミステリアスな魅力も持ち合わせていました。

そして、こと葉の幼馴染であり、後に政治家を目指すことになる今川厚志。彼の存在も、こと葉の成長にとって欠かせないものだったと感じます。かつては淡い恋心を抱いた相手。その彼が、政治という大きな舞台で、言葉を武器に戦おうとする姿は、こと葉にとっても大きな刺激になったはずです。彼の選挙戦をサポートする中で、こと葉はスピーチライターとしてのスキルを磨くだけでなく、社会の矛盾や、政治が人々の生活に与える影響の大きさを肌で感じることになります。

和田日間足、通称ワダカマとの関係性も、物語に深みを与えていましたね。最初はライバル陣営のコピーライターとして登場しますが、次第にこと葉の才能を認め、陰ながらサポートする姿は印象的でした。特に、厚志が選挙戦で不利な状況に立たされた時、彼がこと葉に的確なアドバイスを送る場面は、職業人としての矜持と、こと葉への個人的な想いが垣間見えて、ドキドキしました。最終的に二人が結ばれるという展開は、読者としても嬉しいサプライズでした。

この小説「本日は、お日柄もよく」が私たちに教えてくれるのは、言葉がいかに人の心を動かし、時には人生そのものを変えるほどの力を持っているかということです。結婚式の祝辞、企業のプレゼンテーション、そして政治家の演説。場面は違えど、そこには常に「伝えたい想い」があり、それを最適な言葉で表現することの難しさと尊さがあります。こと葉は、様々なスピーチに関わる中で、言葉の重み、そしてそれが持つ影響力の大きさを痛感していきます。

特に印象的だったのは、厚志の選挙スピーチです。彼の妻が流産するという悲しい出来事が起こり、それを政敵に利用されそうになる。そんな絶体絶命の状況で、こと葉と厚志が選んだのは、ごまかしや嘘ではなく、ありのままの事実を、誠実な言葉で語ることでした。そのスピーチは、多くの聴衆の心を打ち、結果的に選挙戦の流れを変えることになります。このエピソードは、言葉の真の力とは、巧みな言い回しや美辞麗句ではなく、そこに乗せられた「真心」や「誠実さ」にあるのだということを、改めて教えてくれました。

また、この物語は、私たちに「変化を恐れずに一歩踏み出す勇気」も与えてくれます。こと葉は、最初は安定した会社員生活に満足していたかもしれません。しかし、久美との出会いをきっかけに、未知の世界へ飛び込むことを決意します。それは決して楽な道ではありませんでしたが、彼女は困難に立ち向かい、失敗を繰り返しながらも、確実に成長を遂げていきました。彼女の姿を見ていると、自分も何か新しいことに挑戦してみようか、そんな前向きな気持ちにさせられます。

おばあ様である二ノ宮キク代さんの存在も、物語に温かみを添えていました。俳人である彼女の言葉は、短くても深く、こと葉が進むべき道を示唆してくれるかのようでした。「まっすぐに」という言葉は、民衆党のスローガンとしてだけでなく、こと葉自身の生き方をも象徴しているように感じました。迷ったとき、悩んだときに、心の指針となるような言葉を持っていることは、人生においてとても大切なことなのだと思います。

この小説「本日は、お日柄もよく」を通じて、私はスピーチライターという仕事の奥深さを初めて知りました。単に文章を考えるだけでなく、話し手の個性や想いを理解し、聴衆の心に響くように言葉を組み立てていく。それはまさに職人技であり、同時に深い人間理解が求められる仕事なのだと感じました。そして、政治家の演説の裏にも、こうしたスピーチライターの存在があるということを知り、ニュースなどで政治家の言葉を聞く際の視点が少し変わったように思います。

物語の終盤、こと葉がスピーチライターとして独り立ちし、様々な依頼をこなしていく姿は、頼もしくもあり、少し寂しくもありました。師である久美のもとを離れ、自分の力で道を切り開いていく。それは成長の証ではありますが、同時に大きな責任も伴います。それでも、彼女ならきっと大丈夫だろうと、読者として応援したくなる気持ちでいっぱいでした。

そして、ラストシーンの結婚披露宴。こと葉とワダカマが並び、久美が祝辞を述べる場面は、本当に感動的でした。紆余曲折を経て、ようやく幸せを掴んだ二人。そして、そんな二人を温かく見守る仲間たち。これまでの全ての出来事が、この瞬間のためにあったのだと思えるような、素晴らしいエンディングでした。久美の祝辞は、きっとまた伝説に残るような、心に響くものだったことでしょう。

「本日は、お日柄もよく」というタイトルも、物語全体を優しく包み込んでいるように感じます。人生には、晴れの日もあれば、雨の日もあります。しかし、どんな日であっても、それはかけがえのない一日であり、そこから何かを学び、次の一歩へと繋げていくことができる。そんな前向きなメッセージが込められているように思いました。

この小説「本日は、お日柄もよく」は、仕事に悩んでいる人、新しいことに挑戦したいと思っている人、そして言葉の力を信じたい全ての人に読んでほしい一冊です。読めばきっと、心が温かくなり、明日への活力が湧いてくるはずです。原田マハさんの描く、言葉に満ちた美しい世界を、ぜひあなたも体験してみてください。

まとめ

小説「本日は、お日柄もよく」は、言葉の持つ力と、一人の女性の成長を描いた、心温まる物語でした。主人公のこと葉が、平凡な会社員からスピーチライターという新たな道を見つけ、様々な困難を乗り越えながら成長していく姿には、大きな勇気をもらえます。

物語を通して描かれるのは、言葉がいかに人の心を動かし、時には人生をも変えるかということです。結婚式の祝辞から政治演説まで、あらゆる場面で「伝える」ことの重要性、そしてそこに込められた想いの尊さを感じさせてくれます。登場人物たちも個性的で魅力的であり、彼らが織りなす人間ドラマも読みどころの一つです。

特に、こと葉が師である久遠久美や、後に伴侶となる和田日間足、そして幼馴染の厚志といった人々と関わりながら、自分自身の言葉を見つけ出していく過程は感動的です。失敗や挫折を経験しながらも、ひたむきに前に進むこと葉の姿は、私たち自身の日常にも重なり、共感を呼ぶでしょう。

この「本日は、お日柄もよく」は、何か新しいことを始めたいけれど一歩踏み出せないでいる人、日々の仕事に少し疲れてしまった人、そして言葉の魔法を信じたい全ての人に、優しく寄り添ってくれるような作品です。読後には、きっと清々しい気持ちと、大切な誰かに何かを伝えたくなるような温かい気持ちが残るはずです。