小説「日記帳」のあらすじをネタバレ込みで紹介します。長文感想も書いていますのでどうぞ。

江戸川乱歩の作品には、ゾクゾクするような仕掛けや、人間の心の奥底を覗き込むような深さがありますよね。この「日記帳」も、短い物語の中に、読み手の心を揺さぶるドラマが詰まっています。初めて読んだとき、最後の結末に「えっ!」と声を上げてしまったのを覚えています。

物語は、亡くなった弟さんが遺した一冊の日記帳から始まります。兄である「私」が、弟さんのささやかな日常と、秘められた恋心を知っていく過程が描かれます。内気だった弟さんが、どのようにして想いを伝えようとしたのか。その方法が、また切なくて独創的なんです。

この記事では、そんな「日記帳」の物語の詳しい流れと、結末の衝撃、そして私が感じたことや考えたことを、少し長めに語らせていただこうと思います。結末に関する重要な情報も含まれますので、まだ読んでいない方はご注意くださいね。それでは、一緒に「日記帳」の世界を旅してみましょう。

小説「日記帳」のあらすじ

物語の語り手は「私」。彼は、最近亡くなった内気で物静かな弟のことを想っています。弟は一冊の日記帳を遺していました。「私」はその日記を手に取り、ページをめくり始めます。弟のささやかな日常が綴られていますが、特に変わった記述は見当たりません。

しかし、三月のある日から、日記には「北川雪枝」という女性の名前が登場し始めます。弟は彼女に恋心を抱いていたようで、その想いが日記に記されていくのです。二人は直接的な手紙ではなく、葉書でやり取りをしていたことがわかります。弟から雪枝さんへ送られた葉書の日付が、日記には丁寧に記録されていました。

弟が雪枝さんに葉書を送った日付は、三月が九日、十二日、十五日、二十二日。四月は五日と二十五日。そして五月には十五日と二十一日の、合計八回。「私」は、この日付の並びに何か意味があるのではないかと考え、何度も日記を読み返します。

もしかしたら、この日付は暗号なのではないか? 「私」は閃きます。一日をA、二日をB、三日をC…というように、日付をアルファベットに対応させてみたらどうだろうか。そう考えて、弟が葉書を送った日付「9、12、15、22、5、25、15、21」をアルファベットに変換してみます。

すると、そこに現れたのは「I LOVE YOU」という言葉でした。内気な弟は、実に三ヶ月もの時間をかけて、日付という暗号に託して、雪枝さんへの愛の告白を伝えていたのです。なんと切なく、そして健気な方法でしょうか。「私」は弟の秘めた情熱に心を打たれます。

では、雪枝さんの方はどうだったのでしょうか。彼女もまた、弟に合計十一回、葉書を送っていました。その葉書は、弟の手文庫(小さな本箱のようなもの)に大切に保管されていました。「私」がその葉書を確認すると、あることに気づきます。それは、葉書に貼られた切手の位置でした。当時、雑誌などの影響で、切手の貼り方で特定の意思を伝えることが一部で流行っていたのです。雪枝さんの葉書の切手は、明らかに恋の告白を示す貼り方がされていました。弟の想いは、雪枝さんにも通じていたのかもしれない…。「私」はそう思い、弟の恋が成就しなかったことへの無念さを感じます。しかし、物語はここで終わりません。愕然とする事実が、最後に待っているのでした。

小説「日記帳」の長文感想(ネタバレあり)

江戸川乱歩の「日記帳」、何度読んでも、最後に明かされる事実に胸が締め付けられるような思いがします。短い物語でありながら、人間の心の機微、秘めた想い、そして残酷な運命のいたずらが凝縮されていて、深い余韻を残しますよね。

まず、この物語の中心にあるのは、亡くなった弟さんの存在です。兄である「私」の視点を通して語られる弟さんは、「内気で大人しい人物」と表現されています。そんな彼が、北川雪枝さんという女性に熱烈な恋心を抱いていた。そのギャップがまず、読者の心を引きつけます。普段、感情を表に出さない人が、内にどれほどの情熱を秘めているか、計り知れないものがあります。

そして、その想いの伝え方が、あまりにも弟さんらしいというか、切実で独創的です。直接「好きだ」と言えない臆病さ。でも、どうしても伝えたいという強い気持ち。その葛藤が生み出したのが、「葉書を送った日付」による暗号でした。「I LOVE YOU」という、あまりにもストレートな愛の言葉を、三ヶ月もかけて、少しずつ、まるで点描画を描くように伝えていく。この発想自体が、乱歩らしい奇抜さであり、同時に、弟さんの純粋で不器用な性格を象徴しているように感じられます。

ただ、兄がこの暗号に気づくくだりは、少し都合が良いかな、と感じる方もいらっしゃるかもしれません。「日付が暗号になっている」という発想に、果たして自然にたどり着けるものだろうか、と。でも、そこは物語の展開上、必要な飛躍なのでしょう。兄が弟の遺した日記を繰り返し読むうちに、弟の想いの深さを感じ取り、「何か特別な意味があるはずだ」と強く願ったからこそ、見つけられたのかもしれません。そう考えると、兄の弟への愛情が、暗号解読の鍵になったとも言えるのではないでしょうか。

暗号が解け、「I LOVE YOU」というメッセージが現れたとき、兄は弟の秘めた恋心を知り、感動します。そして次に気になるのは、相手の雪枝さんの気持ちですよね。弟の手文庫に残されていた雪枝さんからの十一通の葉書。ここで登場するのが、「切手の貼り方で意思表示する」という、当時の流行です。雪枝さんの葉書の切手は、明らかに好意を示す貼り方だった。つまり、弟の想いは一方的なものではなく、二人は両想いだった可能性が高い、ということです。

この事実を知った兄は、おそらく、亡くなった弟への同情や、叶わなかった恋への無念さを強く感じたことでしょう。内気な弟が勇気を出して( भले ही यह एक अप्रत्यक्ष तरीका था) अपनी भावनाओं को व्यक्त करने की कोशिश की, और दूसरी पार्टी ने भी उसे पसंद किया होगा। लेकिन वे कभी भी सीधे तौर पर एक साथ नहीं आए। यह कितना दुखद है! उस समय, पाठक भी भाई की भावनाओं के साथ सहानुभूति रखेंगे। लेकिन, रानपो की कहानी इतनी सीधी नहीं है।

物語の最後の最後、わずか一行で、この切ない恋物語の様相は一変します。「私」は愕然とするのです。なぜなら、その北川雪枝さんこそ、「私」が弟の死の二ヶ月前に婚約した相手だったからです。この一文が投下された瞬間、それまでの感傷的な雰囲気は吹き飛び、読者は兄と同じように、あるいはそれ以上に強い衝撃を受けることになります。

弟が恋い焦がれていた女性は、自分の婚約者だった。そして、その女性もまた、弟に好意を寄せていた可能性がある。この事実は、兄にとってあまりにも残酷です。弟の日記を読まなければ、雪枝さんの葉書を見つけなければ、知らずにいられたかもしれない秘密。知ってしまったことで、兄の心にはどのような葛藤が生まれるのでしょうか。

雪枝さんという女性についても、いろいろと考えてしまいます。彼女は、兄と弟、二人の男性の間で揺れ動いていたのでしょうか。それとも、弟への好意は本物だったけれど、兄からの求婚を受け入れたのか。あるいは、もっと打算的な考えがあったのか…。物語の中では雪枝さんの心情は詳しく描かれないため、想像するしかありません。もしかしたら、彼女自身も、自分の本当の気持ちがわかっていなかったのかもしれません。

そして、最も謎めいているのが、弟の日記の最後の記述です。雪枝さんからの最後の葉書(おそらく十一通目)を受け取った後、弟はこう記しています。「失望。おれはあんまり臆病すぎた。今になってはもう取返しがつかぬ。ああ」。この「失望」とは、一体何に対するものだったのでしょうか。

一つの解釈としては、雪枝さんからの返信(絵葉書だったとされています)を、暗号への返答ではなく、単なる儀礼的なもの、あるいは暗に拒絶されたものと受け取ってしまった、という可能性です。切手の意味に気づかず、あるいは気づいた上で別の意味に捉えてしまい、「やはり自分の想いは届かなかった」と絶望したのかもしれません。

しかし、別の解釈も成り立ちます。もしかしたら弟は、兄と雪枝さんの関係を知ってしまったのではないでしょうか。自分が密かに想いを寄せる女性が、実の兄と婚約したという事実を知り、すべてに「失望」し、「臆病すぎた」自分を責めたのかもしれません。「もっと早く、直接気持ちを伝えていれば…」という後悔。「今になってはもう取返しがつかぬ」という言葉が、その可能性を強く示唆しているようにも思えます。

どちらの解釈が正しいのか、あるいは全く別の真相があるのか、それは読者の想像に委ねられています。この曖昧さ、多義性こそが、この短い物語に深みを与えている要因でしょう。弟の「失望」の本当の意味を考えると、胸が苦しくなります。

この物語の構成は、まさに「どんでん返し」の見本と言えるでしょう。弟の純粋な恋物語かと思わせておいて、最後に兄と婚約者という関係性を明かすことで、読後感を一気に苦いものへと変えてしまいます。知らなければ幸せだったかもしれない真実を知ってしまった兄の悲劇。それは、乱歩作品に通底するテーマの一つである「知ることの恐ろしさ」をも描き出しています。

内気な弟が、命がけで(結果的に亡くなってしまうわけですから)伝えたかった愛の告白。それが、最も知られたくない相手(兄)に、最も知りたくない形(婚約者との関係)で伝わってしまうという皮肉。運命の残酷さを感じずにはいられません。

果たして兄は、この事実を知ってどうするのでしょうか。雪枝さんとの婚約を続けるのか、それとも…。物語はその先を描きませんが、兄が抱えるであろう心の重荷を想像すると、やりきれない気持ちになります。弟の日記帳は、愛の記録であると同時に、兄にとっては開けてはならないパンドラの箱だったのかもしれません。

この「日記帳」という作品は、江戸川乱歩の初期の短編ですが、後の傑作群にも通じる、人間の心理の暗部や、意外な結末といった要素が既に現れています。わずかなページ数で、これほどまでに読者の心をかき乱し、考えさせる力を持っているのは、さすがとしか言いようがありません。弟の純粋さ、兄の衝撃、そして雪枝さんの謎。それぞれの登場人物の立場になって考えてみると、物語は何層もの深さを見せてくれます。読むたびに新しい発見や解釈が生まれる、そんな魅力を持った作品だと、私は思います。

まとめ

江戸川乱歩の短編小説「日記帳」について、物語の筋書きと、結末のネタバレを含めた詳しい感想をお届けしました。いかがでしたでしょうか。

この物語は、亡くなった内気な弟が遺した日記帳を、兄である「私」が読むところから始まります。弟が抱いていた北川雪枝さんへの秘めた恋心、そして日付を使った「I LOVE YOU」という独創的な暗号。ここまでは、切なくも美しい青春の断片のように感じられます。

しかし、物語の最後に待ち受けるのは、衝撃の事実でした。弟が想いを寄せていた雪枝さんは、なんと兄自身の婚約者だったのです。しかも、雪枝さんも弟に好意を持っていた可能性が示唆されるという、あまりにも皮肉で残酷な結末。このどんでん返しによって、物語の印象は一変し、読者の心に重い余韻を残します。

弟の「失望」の真意、雪枝さんの本当の気持ち、そしてすべてを知ってしまった兄の苦悩。短い物語の中に、解釈の余地が多く残されており、読むたびに様々なことを考えさせられます。人間の心の複雑さ、運命のいたずら、そして知ることの悲劇。江戸川乱歩ならではの世界が、この「日記帳」には凝縮されていると言えるでしょう。まだ読んだことがない方は、ぜひ一度手に取ってみてください。きっと忘れられない読書体験になるはずです。