小説「ロミオとロミオは永遠に」のあらすじをネタバレ込みで紹介します。長文感想も書いていますのでどうぞ。恩田陸さんの作品の中でも、特に異彩を放つこの物語は、一度読み始めたらその独特の世界観に引き込まれてしまうこと間違いなしです。

舞台は、環境破壊が進み、日本だけが地球に取り残されてしまった未来。そんな絶望的な状況下で、唯一の希望とされるエリート養成校「大東京学園」での生活が描かれます。主人公たちが直面する常識外れの試練や、学園に隠された秘密には、きっと驚かされるはずですよ。

この記事では、物語の骨子となる部分から、結末に至るまでの流れを詳しくお伝えします。さらに、読後に感じたこと、考えさせられたことなどを、ネタバレを気にせずにたっぷりと語っていきたいと思います。この作品の持つ、破天荒ながらも不思議な魅力が少しでも伝われば嬉しいです。

それでは、まずは「ロミオとロミオは永遠に」の物語の概要から見ていきましょう。どのような世界で、主人公たちは何を求め、どう行動していくのでしょうか。読み進める上でのガイドとして、参考にしてみてくださいね。

小説「ロミオとロミオは永遠に」のあらすじ

物語の舞台は、21世紀の日本。環境汚染と産業廃棄物の問題が深刻化し、世界各国は「新地球移民法」によって次々と宇宙へ移住してしまいます。しかし、日本だけは議決により旧地球への残留を強いられ、荒廃した国土で、核廃棄物の後片付けなどの限られた仕事しかない、厳しい生活を送っていました。

そんな日本で唯一、輝かしい未来を掴む道とされているのが、2031年に創立された超エリート養成校「大東京学園」を卒業総代として修了することでした。主人公のカナザワアキラは、中部・北陸地区の予選を突破し、この狭き門をくぐり抜けます。幼い頃に両親を亡くし、育ててくれた祖父母に楽をさせたい一心での入学でした。

学園内は厳格なランク分けがされており、アキラは下から三番目の「葛飾クラス」に配属されます。そこで出会ったのが、同じく過酷な北海道地区から来たアカシシゲルでした。二人はすぐに打ち解けますが、アキラには学園を首席で卒業するという表向きの目標とは別に、もう一つ重要な目的がありました。それは、数年前にこの学園に入学し、その後脱走して行方不明になった兄、オサムの手がかりを探すことでした。

兄の情報を集める中で、アキラは学園の規律を乱した者が送られる「新宿クラス」のリーダー的存在、シマバラシロウと接触します。シロウもまた学園の体制に疑問を抱いており、コンピューターに精通する知識を活かして、オサムの脱走の謎を探っていました。しかし、二人の密かな交流は、生徒指導に異常な情熱を燃やす教師、タダノに知られてしまいます。

タダノは学園の汚点とも言えるオサムの存在を快く思っておらず、アキラを問題視し、新宿クラスへと強制的に編入させます。逆境に立たされたアキラでしたが、脱走への決意はますます固くなります。シロウは学園のホストコンピューターへのハッキングに成功し、オサムが脱走直前に20世紀の地下鉄路線図にアクセスしていたことを突き止めます。彼らは使われなくなった旧新橋駅へと続くトンネルを掘り進め、学園からの脱出ルートを確保しました。

決行日は、学園の創立記念日に行われるスポーツの祭典「大東京オリンピック」の日。警備が手薄になるこの日を狙い、アキラ、シゲル、シロウは脱出計画を実行に移します。シゲルもまた、姉の死をきっかけに学園への忠誠心を失い、アキラと共に未来を変えることを決意していました。彼らは混乱に乗じてスタジアムを抜け出し、掘り進めたトンネルを通って、禁断の地「外れの森」へとたどり着きます。森の先にあったのは、不思議な光を放つ滝。三人は意を決して滝壺へと飛び込みます。気がつくと、アキラとシゲルは見知らぬ大根畑に倒れていました。近くにいた農夫に尋ねると、そこは1964年の東京・練馬区だということが判明します。彼らは、この過去の時代から、来るべき荒廃した未来を変えることを誓うのでした。

小説「ロミオとロミオは永遠に」の長文感想(ネタバレあり)

いやはや、恩田陸さんの「ロミオとロミオは永遠に」、本当に不思議な読後感の作品でしたね。読み終えてまず思ったのは、「一体、これは何だったんだ!?」という、良い意味での混乱と興奮でした。荒廃した未来の日本、超エリート校「大東京学園」という設定からして、もう只者ではない雰囲気が漂っていました。

物語の骨格自体は、理不尽な管理社会からの脱走劇であり、そこに友情や兄弟の絆といった要素が絡み合ってくる、ある種王道的な展開とも言えます。しかし、そのディテールというか、肉付けの部分がとにかく常軌を逸しているんですよね。提供された情報にもありましたが、『ハンター×ハンター』の試験編のような奇想天外な試練、『バトル・ロワイアル』を彷彿とさせる狂気的な教師、そして『大脱走』のような集団での脱出劇。これらの要素が、ごった煮のように詰め込まれているんです。

特に印象的なのが、学園の異常さ。日本最高峰のエリート養成校のはずなのに、生徒たちがやらされるのは、意味不明な戦闘訓練、過酷な農作業、そしてなぜか地雷除去…。入学試験に至っては、北海道地区の生徒は学園にたどり着くことすら困難というハードモードっぷり。しかも、少しでも気を抜けば教官からの罵声が飛んでくるという、もはや強制収容所のような環境です。エリートとは…?と考えずにはいられません。

そして、この学園を牛耳る教師、タダノの存在感が強烈でした。まさに『バトル・ロワイアル』のキタノを彷彿とさせるような、徹底した管理と自身の歪んだ理想の押し付け。生徒の教育に人生を捧げている、と言えば聞こえはいいですが、その実態は狂気そのもの。彼の語る「パイの話」も、一見深そうに見えて、よく考えると「???」となる部分が多く、その支離滅裂さが逆に不気味さを際立たせていました。

この作品のもう一つの大きな特徴は、怒涛のパロディ、というか引用の嵐ですよね。特にクライマックス近くの「大東京オリンピック」のシーンは圧巻でした。突如として現れるゴジラ、そしてそれにウエスタンラリアートをかますキティちゃん(!)、さらにはミッキーマウス(らしきネズミ)やスヌーピー(らしきビーグル犬)まで登場し、スタジアムで大乱闘を繰り広げる…。このカオスっぷりには、思わず声を出して笑ってしまいました。

著作権的に大丈夫なのか!?と心配になるレベルですが、作者の恩田陸さんは確信犯的にやっているのでしょうね。ディズニーランドが作中では「最悪の汚染物質が集められたゴミダメ」として描かれているあたり、何か強いメッセージ…というよりは、ある種のブラックな遊び心を感じます。「悪夢だ」「ディズニー社が著作権使用料を取りに来るぞ」という作中の台詞が、また笑いを誘います。

かと思えば、シリアスなシーンももちろんあります。主人公アキラとシゲルの友情、行方不明の兄への想い、そして絶望的な未来を変えようとする決意。特に、シゲルが姉の死を知り、学園に留まる意味を見失ってアキラと共に脱走を決意する場面は、胸に迫るものがありました。

しかし、そのシリアスさも、時折挟まれる突拍子もないギャグによって、独特の緩急を生み出しています。個人的にツボだったのは、シマバラとその相棒イワクニが自転車で合体する「バローム・クロス!」のシーン。もう、意味が分かりません(笑)。その直後にイワクニが重傷を負い、感動的な別れのシーンが描かれるのですが、「いや、お前らが変な合体したからだろ!」とツッコミを入れずにはいられませんでした。

このように、シリアスとギャグ、絶望と希望、現実と虚構が目まぐるしく入れ替わり、読んでいるこちらも感情がジェットコースターのように揺さぶられます。だからこそ、突っ込みどころ満載なのに、ページをめくる手が止まらないのかもしれません。

そして、タイトルの「ロミオとロミオは永遠に」。これ、結局最後までどういう意味なのか、明確には語られませんでしたね。作中にロミオという名前の少年が登場するわけでもなく…。もしかしたら、アキラとシゲル、あるいはアキラと兄オサムの関係性を、悲劇的な運命に翻弄される恋人たちになぞらえているのかもしれませんが、深読みしすぎでしょうか。作者自身もよく分かっていない、という情報もあるようで、それも含めてこの作品らしい、と言えるのかもしれません。

結末は、アキラたちが1964年の東京にタイムスリップするという、これまた意表を突くものでした。荒廃した未来を知る彼らが、過去を変えるためにどう行動していくのか。物語はここで一旦幕を閉じますが、彼らの新たな戦いを想像させる、希望と不安がないまぜになったような終わり方でしたね。この過去への跳躍が、ある種のノスタルジー、参考情報にあった「郷愁と狂騒の20世紀に捧げるオマージュ」という側面を強調しているようにも感じられました。

全体を通して感じたのは、この作品が持つ「軽やかさ」です。設定自体は非常にヘビーで、ディストピアSFとしても読めるはずなのですが、どこか突き抜けた明るさ、あるいは「どうにでもなれ!」的な破天荒さが全体を覆っています。だからこそ、タダノのような絶対的な悪役に対するカタルシスが少し物足りない、という感想も理解できます。もっと徹底的に打ちのめしてほしかった、という気持ちも分かります。

しかし、このある種の「軽さ」こそが、恩田陸さんらしさなのかもしれません。シリアスになりすぎず、かといって単なるおふざけに終始するわけでもない。絶妙なバランス感覚で、読者を飽きさせずに物語世界に引き込み続ける。その手腕はさすがだな、と感じ入りました。

提供された感想にもありましたが、確かに女っ気がほとんどない、むさ苦しい(?)世界観ではあります。しかし、それ故にアキラとシゲルの間の、多くを語らずとも通じ合えるような固い友情が際立って見えました。

この「ロミオとロミオは永遠に」は、万人受けするタイプの作品ではないかもしれません。あまりにも奇想天外で、人によっては「ついていけない」と感じる部分もあるでしょう。しかし、このハチャメチャなエネルギー、既成概念を打ち破るような自由な発想に満ちた物語は、一度ハマると抜け出せない強烈な魅力を持っています。エンターテイメントとして純粋に楽しめる一方で、環境問題や管理社会といったテーマについて、ふと考えさせられる瞬間もありました。

まとめ

恩田陸さんの「ロミオとロミオは永遠に」は、荒廃した未来の日本を舞台にした、型破りな学園SF脱走劇でした。環境破壊によって地球に取り残された日本で、唯一の希望とされる「大東京学園」に入学した主人公アキラが、仲間たちと共に理不尽な管理体制に立ち向かい、自由を求めて脱走を試みる物語です。

その過程で描かれるのは、奇想天外な試練、狂気的な教師、そして怒涛のパロディ。シリアスな設定の中に、思わず笑ってしまうようなギャグが絶妙に織り交ぜられ、読者を飽きさせません。特に、様々な有名キャラクターが登場するカオスなシーンは必見です。

物語の結末では、主人公たちは過去の東京へとタイムスリップし、未来を変えるための新たな戦いを予感させます。突っ込みどころは満載ですが、その破天荒さと疾走感、そして根底に流れる友情や希望のテーマが、この作品の大きな魅力となっています。

「ロミオとロミオは永遠に」は、常識にとらわれないエンターテイメントを求める方、恩田陸さんの持つ独特の世界観に触れたい方におすすめの一冊です。きっと、その奇妙でパワフルな物語に引き込まれることでしょう。