小説「麦本三歩の好きなもの 第二集」のあらすじをネタバレ込みで紹介します。長文感想も書いていますのでどうぞ。住野よるさんが描く、あの不器用で愛おしい主人公、麦本三歩が帰ってきました。前作『麦本三歩の好きなもの 第一集』を読まれた方は、三歩のマイペースで、どこか放っておけない魅力をご存知のことと思います。まだの方は、ぜひ第一集から手に取ってみてください。彼女の人となりを知っていると、この第二集はさらに深く、温かく感じられるはずです。

この第二集では、三歩の日常に新しい風が吹きます。大学図書館での仕事にも慣れてきたところに、初めての後輩ができたり、ちょっとドキドキする出会いがあったり。もちろん、お馴染みの「優しい先輩」や「怖い先輩」との関係性にも変化が訪れます。相変わらずドジでおっちょこちょい、すぐに言葉に詰まってしまう三歩ですが、彼女なりのペースで、少しずつ世界を広げていく様子が描かれています。

この記事では、まず『麦本三歩の好きなもの 第二集』がどのような物語なのか、その概要を、結末に触れる部分も含めてお伝えします。三歩がどんな出来事に遭遇し、どんな気持ちになったのか、物語の核心に迫る部分も紹介しますので、知りたくない方はご注意くださいね。

そして後半では、物語を読み終えて私が感じたこと、考えたことを、かなり詳しく、そして正直に書き連ねています。三歩の言動にクスッと笑ったり、ハッとさせられたり、時には胸がじんわり温かくなるような瞬間がたくさんありました。そんな個人的な体験を、物語の細部に触れながら、たっぷりと語っています。どうぞ、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

小説「麦本三歩の好きなもの 第二集」のあらすじ

『麦本三歩の好きなもの 第二集』は、大学図書館に勤める麦本三歩の、あいかわらずだけど少しだけ新しい日々を描いた物語です。前作から少し時間が経ち、三歩も図書館での仕事にいくらか慣れてきた様子。それでも、マイペースでおっとりしていて、よく噛み、よく転ぶ彼女の基本的なところは変わりません。日々のささやかな出来事の中に、彼女なりの「好き」を見つけながら過ごしています。

年が明け、三歩の職場に初めての後輩、真面目で一生懸命な女の子が入ってきます。これまで一番下の立場でのほほんとしていた三歩ですが、初めて「先輩」と呼ばれる立場になり、戸惑いながらも指導にあたろうと奮闘します。しかし、緊張すると余計に空回りしてしまうのが三歩。後輩にうまく仕事を教えられなかったり、ドジを踏んだりして落ち込むこともありますが、持ち前の素直さと、周囲の先輩たちの助けを借りながら、少しずつ関係を築いていきます。

プライベートでは、友人との付き合いで合コンに参加することに。人見知りで口下手な三歩にとっては大きな挑戦ですが、そこで一人の男性と出会います。彼は三歩の少し変わったところに興味を持ってくれるようで、連絡先を交換し、後日二人で会うことになります。デート中も、緊張でうまく話せなかったり、失敗したりと、三歩らしいドタバタは続きますが、相手の男性はそんな彼女を面白がってくれる様子。二人の関係がどう進展していくのか、読者もドキドキしながら見守ることになります。

また、三歩が住むアパートの隣には、謎めいた雰囲気の女性が引っ越してきます。最初は少し警戒心を抱く三歩ですが、ある出来事をきっかけに、言葉を交わすように。直接的に助け合うわけではないけれど、「お隣さん」として互いの存在を認め合い、静かに生活を送る関係性に、三歩は不思議な安心感を見出します。一人暮らしの心細さの中で、他人との絶妙な距離感について考えるきっかけとなります。

物語の終盤では、三歩がずっと恐れ、同時にどこか頼りにもしていた「怖い先輩」に大きな変化が訪れます。結婚して退職することになったのです。先輩との別れは三歩にとって寂しい出来事ですが、同時に、これまでの関係性を振り返り、自身の成長を実感する機会にもなります。先輩から掛けられた言葉や、これまでの厳しい指導の意味を改めて噛み締め、感謝の気持ちとともに、一歩前に進もうとする三歩の姿が描かれます。

この第二集を通して、三歩は新しい出会いや経験を通して、ほんの少しだけれど確実に成長していきます。失敗したり、落ち込んだりしながらも、自分なりのペースで前を向き、「好きなもの」を大切にする彼女の姿は、読む人の心を温かくします。特別な事件が起こるわけではないけれど、日常の中にあるきらめきや、人との繋がりの大切さを、改めて感じさせてくれる物語となっています。

小説「麦本三歩の好きなもの 第二集」の長文感想(ネタバレあり)

『麦本三歩の好きなもの 第二集』を読み終えて、まず感じたのは、前作から続く独特の空気感、あの、なんとも言えない心地よさが健在であることへの安堵感でした。住野よるさんの描く世界、特にこの「麦本三歩」シリーズは、劇的な出来事が起こるわけではないのに、なぜかページをめくる手が止まらなくなる不思議な魅力があります。それはきっと、主人公である麦本三歩という存在そのものが、私たち読者にとって非常に身近で、共感と愛着を抱かせるからなのでしょう。

三歩は、相変わらずでした。すぐに言葉を噛んでしまい、何もないところでつまずき、常にオドオドしているかと思えば、時折、核心を突くような鋭い感性を見せる。そのアンバランスさが、彼女の人間味であり、私たちが彼女から目が離せない理由なのかもしれません。第二集では、後輩ができたり、合コンに行ったりと、彼女を取り巻く環境に変化が訪れますが、その中心にいる三歩の「らしさ」は少しも揺るぎません。むしろ、新しい状況に置かれることで、彼女の魅力や、ちょっと困ったところが、より一層際立っていたように感じます。

日常の断片を切り取って、それを愛おしく描き出す筆致は、本当に見事だと思います。二日酔いの辛さ、Twitterでの何気ないつぶやき、コンビニでのお菓子選び。私たちの誰もが経験するような、ごく普通の出来事が、三歩のフィルターを通すと、なんだか特別なことのように感じられるのです。それは、三歩が決して日常を退屈なものとして捉えず、その中に小さな「好き」や発見を見つけ出す天才だからかもしれません。「これでいいのかな」と不安になったり、「まあいっか」とすぐに立ち直ったりする、その心の揺れ動きが丁寧に描かれているからこそ、私たちは三歩の隣にいるような気持ちで、物語に没入できるのでしょう。

特に印象的だったエピソードの一つが、後輩指導の話、「麦本三歩はプリンヘアが好き」です。初めて先輩という立場になり、しっかりしなきゃ、と意気込むものの、空回りばかりしてしまう三歩。その姿は、新しい役割に戸惑う私たちの姿そのもので、読んでいて「わかる、わかるよ三歩…!」と何度も心の中で声をかけてしまいました。後輩の真面目さや優秀さが眩しく見える一方で、自分の不甲斐なさに落ち込む。でも、そんな三歩を、優しい先輩や、時には怖い先輩が、それぞれのやり方で見守り、支えてくれる。職場の人間関係の温かさが、三歩の成長をそっと後押ししているようで、胸が温かりました。非常識な要求をしてくる利用者に対して、毅然とした態度を示すよう先輩からアドバイスされる場面は、社会で働く上で大切なことを教えてくれます。「媚びて許してもらおうとしちゃ駄目だ」という言葉は、三歩だけでなく、私たち読者にも響くものがあったのではないでしょうか。

「麦本三歩は女の子が好き」のエピソードも心に残りました。偶然出会った小さな女の子と、文房具店で一緒に折り紙を折る場面。三歩の不器用ながらも優しい接し方と、子供の純粋さが交差する光景は、本当に微笑ましいものでした。そして、そこで出会う腕にタトゥーのあるおばあさん。一見、怖そうに見えるけれど、孔雀の折り紙を教えてくれる粋な計らい。三歩が密かにタトゥーに憧れている、という意外な一面も明かされます。「温泉に入れなくなるのは嫌だから、まだ入れない」という理由が、なんとも三歩らしいですよね。外見や先入観にとらわれず、人と向き合うことの大切さを、この短いエピソードが教えてくれた気がします。

そして、読者が(私も含めて)おそらく一番気になっていたであろう、合コンで出会った男性とのその後。これも、三歩らしいペースで、ゆっくりと、でも確実に進展していて、読んでいてなんだか嬉しくなってしまいました。「麦本三歩は復讐ものが好き」で描かれたデートの場面は、ドキドキとハラハラと、そしてクスッと笑える要素が満載でした。東京タワーでの会話、食事の場面、帰り道。緊張しすぎて挙動不審になったり、自分の好きなことばかり話してしまったり、後から「相手はつまらなかったんじゃないか」と猛烈に自己嫌悪に陥ったり…。三歩の気持ち、痛いほどよく分かります。相手のことを思いやりすぎるあまり、勝手に不安になってしまう。恋愛における、あの独特の不安定な感情が、とてもリアルに描かれていました。

それでも、相手の男性(作中では最後まで名前は明かされませんが)は、そんな三歩のあたふたぶりを、否定せずに受け止めてくれているように見えました。「面白い子だな」と感じてくれているであろう彼の反応に、読んでいるこちらまでホッとしてしまう。この二人の関係が、今後どうなっていくのか、想像するだけで顔がにやけてしまいます。すぐに結論を求めず、焦らず、ゆっくりと関係を育んでいこうとする二人の姿は、現代のスピード感に少し疲れた心を、優しく癒してくれるようでした。実家に帰省した際のエピソードで、弟に彼とのことを少しだけ話す場面も、三歩の心境の変化がうかがえて、微笑ましかったです。

家族との関係性も、この第二集ではより深く描かれていました。特に、双子の弟の存在が明かされたのは驚きでしたね。職場では末っ子キャラの三歩が、弟の前ではしっかり「お姉ちゃん」として振る舞おうとする(そして、やっぱりどこか空回りしている)様子は、新鮮で面白かったです。弟からの、ちょっとぶっきらぼうだけど、根底には姉を思う気持ちが感じられるやり取り。そして、三歩の両親。あの独特のおっとりした、でも温かい家庭の雰囲気が、三歩という人間を形作っているのだな、と改めて感じさせられました。「家族相手だから無条件に距離感がなくなるという性質のものじゃない」という三歩のモノローグは、家族という近い存在だからこその難しさや、大切にすべき距離感について、深く考えさせられる言葉でした。

そして、物語のクライマックスとも言えるのが、「怖い先輩」の結婚退職のエピソードでしょう。三歩にとって、怖いけれど、どこかで頼りにしていた存在。仕事の厳しさを教えてくれた、ある意味で恩人のような先輩との別れ。寂しさを感じながらも、先輩からの最後の言葉や、これまでの日々を思い返し、三歩は自分自身の成長を噛み締めます。ただ甘やかされるだけでなく、時には厳しい言葉や態度で接してくれた先輩がいたからこそ、今の自分がある。そう気づけたことは、三歩にとって大きな一歩だったはずです。お別れのシーンで、三歩が涙をこらえながらも、しっかりと感謝の気持ちを伝えようとする姿には、胸が熱くなりました。

このエピソードを通して、三歩は「誰かに守られる存在」から、少しだけ脱却したように見えます。もちろん、彼女の根本的な不器用さやマイペースさは変わりません。でも、困難な状況に立ち向かう強さや、自分の足で立とうとする意志のようなものが、以前よりもはっきりと感じられるようになりました。それは、後輩ができたこと、恋愛が始まったこと、そして怖い先輩との別れといった、様々な経験が彼女を少しずつ大人にした証なのでしょう。

この作品全体を通して流れているのは、「日常賛歌」とでも言うべきテーマです。「嫌いなものより、好きなもののことを語ろう」というメッセージは、前作から一貫しています。そして第二集では、その「好き」が、特別な出来事の中だけにあるのではなく、本当に些細な、見過ごしてしまいそうな日常の瞬間瞬間に溢れていることを、改めて教えてくれます。三歩が好きな、チーズ蒸しパン、図書館の匂い、プリンヘア、頑張っている女の子、そして、新しく加わったかもしれない、隣人との静かな共犯関係や、少しずつ距離を縮めている彼のこと。これらの「好き」が積み重なって、三歩の世界は彩り豊かになっていきます。

「明日は今日よりもちょっと頑張れたらいい、もし出来なかったら明後日でいいや。明々後日も恐らくまだ生きてるから大丈夫。」という三歩の言葉は、この物語の優しさを象徴しているように思います。完璧じゃなくていい、自分のペースでいいんだよ、と。頑張りすぎてしまう現代社会の中で、この言葉に救われる人は多いのではないでしょうか。私もその一人です。三歩のように、毎日の中に小さな「好き」を見つけ、焦らず、自分の歩幅で歩んでいけたら、人生はもっと豊かになるのかもしれません。

住野よるさんの作品は、『君の膵臓をたべたい』のような切ない物語から、この『麦本三歩』シリーズのような心温まる日常譚まで、幅広いですが、共通しているのは、登場人物たちの心の機微を丁寧にすくい取り、読者の心に深く響く言葉を紡ぎ出す力だと思います。特に三歩のモノローグは、時にハッとさせられ、時にクスッと笑え、そして、じんわりと心に染み渡ります。

第二集を読み終えて、早くも第三集が待ち遠しくなりました。三歩と彼の関係は? 新しい後輩との関係は? そして、三歩はどんな「好き」をまた見つけていくのでしょうか。彼女の、あいかわらずだけど、きっとまた少しだけ変化していくであろう日常を、これからも見守り続けたい。そんな温かい気持ちにさせてくれる、素敵な一冊でした。疲れた時に、そっと寄り添ってくれるような、優しい物語を読みたい人に、心からおすすめしたい作品です。

まとめ

住野よるさんの小説『麦本三歩の好きなもの 第二集』は、前作に引き続き、大学図書館で働く麦本三歩の、愛すべき日常を描いた物語です。特別な事件が起こるわけではありませんが、彼女の周りで起こるささやかな出来事や、心の変化が丁寧に綴られており、読んでいると心がじんわりと温かくなります。

第二集では、後輩ができたり、合コンで出会った男性との関係が進展したり、お隣さんとの交流が生まれたりと、三歩の世界が少しずつ広がっていく様子が描かれています。相変わらずドジで不器用な三歩ですが、彼女なりに悩み、考え、そして小さな一歩を踏み出していく姿には、誰もが共感し、応援したくなるはずです。

物語の随所に散りばめられた、三歩の「好き」なものたち。それは、私たちの日常にも転がっているような、ささやかな喜びや発見です。この作品を読むと、普段見過ごしてしまいがちな日常の風景が、少しだけ輝いて見えるかもしれません。「明日は今日よりもちょっと頑張れたらいい」という三歩の言葉のように、完璧じゃなくても、自分のペースで生きていくことの肯定感が、作品全体を優しく包み込んでいます。

何気ない毎日が愛おしく感じられたり、少し疲れた心を癒したいと感じている方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。読了後には、きっと麦本三歩というキャラクターが大好きになり、彼女の次の物語が待ち遠しくなることでしょう。温かい気持ちと、明日への小さな活力を与えてくれる、そんな素敵な作品でした。