小説「普通じゃない。」のあらすじをネタバレ込みで紹介します。長文感想も書いていますのでどうぞ。原田マハさんが描く、ちょっと不思議で、でも心が温かくなる物語の世界へ、皆さまをご案内いたします。

この物語の主人公は、どこにでもいるようで、実は特別な力を持ってしまった女性、御厨しいな。彼女の日常が、ある出来事をきっかけに、まさに「普通じゃない。」展開を迎えることになるんです。夢を追いかけることのきらめきや、人と人との出会いがもたらす化学反応、そして、都会の真ん中で花を咲かせようとする壮大な計画。読んでいるうちに、しいなと一緒にハラハラしたり、胸が熱くなったりすることでしょう。

「普通じゃない。」というタイトルに込められた意味を考えながら読み進めるのも、この作品の楽しみ方の一つかもしれません。何が「普通」で、何が「普通じゃない」のか。もしかしたら、私たち自身も、気づかないうちに「普通じゃない。」何かを秘めているのかもしれませんね。

それでは、まずは物語の骨子となる部分から、ゆっくりと紐解いていきましょう。もし、まだこの物語を読んでいないけれど、読む予定があるという方は、ここから先は内容に触れる部分が多くなりますので、ご注意くださいね。それでも大丈夫という方は、ぜひこのままお進みください。

小説「普通じゃない。」のあらすじ

御厨しいなは、ガーデナーになるという夢を抱きつつも、なかなか定職に就けず、アルバイトを転々とする日々を送っていました。茨城県牛久市の造園会社で事務員として働いていたある日、しいなは松の木の剪定作業中に梯子から転落し、頭を強打してしまいます。この事故がきっかけで、しいなは植物の声を聞き分けるという不思議な能力を身につけることになるのです。

ある日曜日、しいなは郊外の植物公園を訪れます。そこで、ベンチで寝そべっていた権田原大咲と名乗る高齢の男性と出会い、すぐに意気投合します。彼からラナンキュラスの鉢植えをプレゼントされたしいなは、その鉢植え――E.O.(エクストラオーディナリー、普通じゃない)と名付けられた――からの助言を受け、後日、権田原の会社を訪ねてみることにしました。

驚いたことに、権田原は個人総資産額2000億円を超える大企業の社長だったのです。しいなは彼の秘書として雇われることになり、東京を一望できる58階建ての「ゴンダイセンター」の地下4階にある「秘書室出島」という部署に配属されます。直属の上司となった矢車草輔と共に、しいなは権田原の突拍子もない「妄想」を実現するための任務に追われる日々が始まります。

日本橋の老舗そば屋から5分で出前を届ける「出前シューター」や、角のない消しゴム、チタン製のタケコプターなど、権田原の要求は次から次へとエスカレート。そんな中、権田原は取締役会の直前に倒れ、危篤状態に陥ります。しいなはE.O.を連れて病院へ駆けつけ、E.O.の葉を権田原の枕元に届けると、彼は奇跡的に回復します。復帰した権田原は車椅子姿でしたが、相変わらずのアイデアマンぶりを発揮。しかし、今期限りでの引退を決意しており、最後の「妄想」として、東京都心のビルを花畑に変える巨大プロジェクトをしいなに託します。この前代未聞の屋上緑化計画は「普通じゃない」と名付けられました。

プロジェクトには外部からも人材が登用され、しいなは環境デザイン会社「トップグリーン」から来た美しき樹医、萩野あおいとコンビを組みます。あおいもまた植物の気持ちが分かると語り、しいなは当初、彼女に対して複雑な感情を抱きます。しかし、ある週末、あおいに誘われて訪れた植物公園で、あおいは自らの秘密――幼い頃から植物の声が聞こえたこと、そして長年パートナーを探していたこと――を打ち明け、プロジェクト成功の暁には自分の会社に来てほしいとしいなを誘います。

夏の終わりの夕暮れ、プロジェクトメンバーは権田原をゴンダイセンターの最上階へ案内します。そこには、色とりどりのスイレンが咲き誇る屋上庭園「E.O.」が広がっていました。しいなの合図で、夜空には花火が打ち上がります。それは、江戸時代から続く花火師の家系であるしいなの祖父・御厨道楽が、孫娘の一大プロジェクトのために打ち上げたものでした。権田原は満足して引退を迎え、社内に都市緑化課を新設。あおいの誘いを断り、都市緑化課の課長を引き受けたしいなは、以前のように植物の声が聞こえなくなっていることに気づきます。進むべき道が見えたことで能力が消えるというあおいの言葉に納得したしいなは、新社長となった草輔の就任挨拶が行われる大会議場へと向かいます。権田原は道楽とあおいの3人で、世界中の荒れ野に花を咲かせる旅へと出発するのでした。

小説「普通じゃない。」の長文感想(ネタバレあり)

原田マハさんの「普通じゃない。」を読み終えた今、心がじんわりと温かく、そして爽やかな風が吹き抜けるような感覚に包まれています。この物語は、ただのエンターテイメントとして消費されるだけでなく、私たちの日常に潜む小さな奇跡や、夢を追いかけることの素晴らしさを、改めて教えてくれる作品だと感じました。

まず、主人公の御厨しいな。彼女の「植物の声が聞こえる」という特殊能力は、物語にファンタジックな彩りを与えながらも、決してそれだけに依存しない人間的な成長譚として描かれている点が素晴らしいですね。最初はどこか頼りなく、自分の進むべき道を見つけられずにいたしいなが、権田原大咲という破天荒ながらも愛情深い人物や、様々な仲間たちとの出会いを通じて、少しずつ、しかし確実に変化していく様子は、読んでいて本当に応援したくなりました。

特に印象的だったのは、しいなが権田原の「妄想」と向き合う中で、知らず知らずのうちにビジネススキルや交渉力、そして何よりも「不可能を可能にする」という強い意志を培っていく過程です。出前シューターや角のない消しゴムといった、一見すると馬鹿馬鹿しいとも思えるアイデアに真摯に取り組む姿は、滑稽でありながらも、そこには純粋なひたむきさがあり、心を打たれます。

そして、物語の大きな軸となる「屋上緑化プロジェクト」。これは単なる都市開発の物語ではなく、人間と自然との共生、そして未来への希望を象徴する壮大な試みとして描かれています。コンクリートジャングルと化した東京の真ん中に、花と緑あふれる空間を創り出すという夢物語のような計画が、しいなをはじめとする登場人物たちの情熱と努力によって現実のものとなっていく様は、まさに圧巻でした。

権田原大咲というキャラクターも、この物語の大きな魅力の一つでしょう。彼の「普通じゃない」発想力と行動力は、周囲を振り回しながらも、結果として多くの人々に良い影響を与えていきます。彼の言葉には、人生を豊かに生きるためのヒントが散りばめられているように感じました。「妄想」という言葉で表現される彼のアイデアは、実は常識にとらわれない自由な発想の重要性や、夢を見ることの大切さを私たちに教えてくれているのではないでしょうか。彼の存在そのものが、しいなにとって、そして読者にとっても、「普通じゃない」けれど、かけがえのない師であったと言えるでしょう。

萩野あおいの登場も、物語に深みを与えています。しいなと同じように植物の声を聞くことができる彼女は、しいなにとってライバルであり、同志であり、そして鏡のような存在でもあったように思います。あおいとの出会いを通じて、しいなは自分自身の能力や、これから進むべき道について、より深く考えるきっかけを得ます。二人の女性が、時にはぶつかり合いながらも、共通の目標に向かって協力し合う姿は、見ていて清々しい気持ちになりました。

物語の終盤、しいなが植物の声を聞こえなくなる場面は、少し寂しさも感じましたが、それは彼女が自分自身の力で未来を切り開いていく準備ができた証でもあるのでしょう。「進むべき道が見えることによって植物の声が聞こえなくなる」というあおいの言葉は、ある種の能力に頼らなくても、自分の足でしっかりと立てるようになったしいなの成長を象徴しているように感じました。それは、魔法が解ける瞬間というよりも、新たなステージへの扉が開かれた瞬間だったのかもしれません。

また、しいなの祖父である御厨道楽の存在も忘れてはなりません。代々続く花火師という、日本の伝統文化を背負う彼の生き様は、しいなのプロジェクトに華を添えるだけでなく、物語に温かい人間味と歴史の重みを与えています。クライマックスで打ち上げられる花火は、まさにしいなの努力と、関わった全ての人々の想いが結実した瞬間であり、感動的でした。

「普通じゃない。」というタイトルは、物語全体を貫くテーマでもあります。しいなの能力、権田原の行動、そして屋上緑化プロジェクトそのもの。これらは確かに「普通じゃない」かもしれません。しかし、物語を読み終えて思うのは、「普通じゃない」ことは、決して悪いことではないということです。むしろ、常識や既成概念にとらわれず、自分自身の心の声に耳を傾け、夢に向かって突き進むことこそが、人生を豊かに彩るのではないでしょうか。

原田マハさんの文章は、いつもながら瑞々しく、情景が目に浮かぶようです。特に植物たちの描写は、まるで本当にそれらが語りかけてくるかのような生命力に満ち溢れていました。都会の喧騒の中で、ふと足元の草花に目を向けたくなるような、そんな優しい気持ちにさせてくれます。

この物語は、私たち一人ひとりが持つ可能性の大きさを教えてくれます。しいなのように特別な能力を持っていなくても、誰かのために、あるいは自分自身の夢のために、一歩踏み出す勇気を持つこと。それが、日常を「普通じゃない」素晴らしいものに変える魔法なのかもしれません。

ラストシーンで、権田原が道楽、あおいと共に新たな旅に出る姿は、希望に満ち溢れていました。彼らの挑戦はこれからも続くのでしょうし、それを見送るしいなもまた、新たな一歩を踏み出す。それぞれの道が、明るい未来へと続いていることを感じさせる、実に清々しい結末でした。

この物語を読んで、私たちは日々の生活の中で、つい見過ごしてしまいがちな小さな美しさや、人との繋がりの温かさを再発見することができます。そして、自分自身の心の中にある「普通じゃない」何かを、大切に育てていきたいと思わせてくれるはずです。

もし、あなたが日々の生活に少し疲れていたり、何か新しい刺激を求めていたりするのなら、ぜひこの「普通じゃない。」の世界に触れてみてください。きっと、しいなたちの物語が、あなたの心に優しい光を灯してくれることでしょう。読後には、きっと空を見上げ、深呼吸したくなるような、そんな作品です。

この物語は、現代社会へのメッセージも込められているように感じます。都市化が進み、自然との触れ合いが希薄になりがちな私たちにとって、緑の大切さ、自然との共生の必要性を、エンターテイメントという形で優しく問いかけてくれているようです。そしてそれは、決して堅苦しいものではなく、心から楽しめる形で描かれているのが、原田マハさんならではの魅力だと改めて感じました。

最後に、この「普通じゃない。」という物語が、多くの読者の心に届き、それぞれの日常に小さな「普通じゃない」素敵な変化をもたらしてくれることを願っています。素晴らしい読書体験をありがとうございました。

まとめ

原田マハさんの小説「普通じゃない。」は、植物の声が聞こえるようになった主人公・御厨しいなが、型破りな実業家・権田原大咲との出会いをきっかけに、東京のど真ん中に花畑を作るという壮大なプロジェクトに挑む物語です。夢を諦めかけていたしいなが、数々の困難を乗り越え、仲間たちと共に成長していく姿が、温かく、そして力強く描かれています。

この物語の魅力は、何と言っても個性豊かな登場人物たちと、彼らが織りなす「普通じゃない」けれど心温まる人間ドラマでしょう。しいなの特殊能力というファンタジー要素と、都市開発という現実的なテーマが見事に融合し、読者をぐいぐいと引き込みます。権田原の「妄想」が次々と形になっていく様は爽快で、読んでいるこちらもワクワクさせられます。

物語のクライマックスである屋上庭園の完成と、そこに打ち上げられる花火のシーンは、多くの読者の心に深い感動を残すことでしょう。それは、しいなたちの努力が結実した瞬間であると同時に、人と自然が共生する未来への希望を象徴しているかのようです。読み終えた後には、心が洗われるような清々しさと、明日への活力が湧いてくるような作品です。

「普通じゃない。」というタイトルが示すように、この物語は常識にとらわれず、自分らしく生きることの大切さを教えてくれます。原田マハさんならではの軽快な筆致と、心に響くメッセージが詰まったこの一冊。日々の生活に彩りを与えてくれる、素敵な読書体験を約束してくれるでしょう。