小説「キケン」のあらすじをネタバレ込みで紹介します。長文感想も書いていますのでどうぞ。
有川浩さんの作品の中でも、特に熱狂的なファンが多いと言われるこの「キケン」。成南電気工科大学という、ちょっと(いや、かなり?)変わった大学を舞台にした、男子学生たちの破天荒な日常を描いた物語なんです。一度読み始めたら、もうページをめくる手が止まらなくなること請け合いですよ。
物語の中心となるのは、「機械制御研究部」、略して「機研(キケン)」。でも、この部活、ただの機械いじりの集まりじゃないんです。その活動内容たるや、まさに「危険」そのもの! 部長の上野を筆頭に、強烈な個性を持つメンバーたちが繰り広げる騒動は、笑いあり、ちょっぴり(?)危ない香りあり、そして胸が熱くなる友情ありと、盛りだくさんな内容になっています。
この記事では、そんな「キケン」の物語の詳しい流れ、そして結末に触れつつ、私がこの作品を読んで感じたこと、考えたことを、たっぷりと語っていきたいと思います。まだ読んでいない方は、物語の核心に触れる部分もありますのでご注意くださいね。読んだことがある方は、「そうそう!」と頷きながら、あるいは「私はこう思ったな」なんて考えながら、楽しんでいただけたら嬉しいです。
小説「キケン」の物語の詳しい流れ
物語は、ごく普通の大学生、元山高彦が、友人の池谷悟と共に、成南電気工科大学の「機械制御研究部」、通称「キケン」に入部するところから始まります。充実した設備に惹かれた二人でしたが、そこに待ち受けていたのは、想像を絶する先輩たちでした。部長の上野直也は「成南のユナ・ボマー」の異名を持つ火薬マニア、副部長の大神宏明は「大魔神」と呼ばれるほどの強面。彼らの常識外れな行動に、元山たちは度肝を抜かれます。
新入生を歓迎する(そして、ついてこれない者をふるい落とす)ための恒例行事は、なんと爆破実験! 上野が仕掛けた爆薬が派手な音と光を放ち、大学構内は一時騒然となります。もちろん、大学の教授からは大目玉。それでも、この「キケン」な洗礼を乗り越え、元山と池谷を含む9名の新入生が正式に部員となりました。強面の副部長・大神が、ひょんなことから他大学の女子学生に恋をするエピソードもあります。部員たちは大神を応援しますが、価値観の違いから結局破局。傷心の大神を慰めるうちに、新入生たちは少しずつ先輩たちとの距離を縮めていくのでした。
やがて学園祭の季節がやってきます。「キケン」は毎年恒例のラーメン店を出店することに。しかし、ただのラーメンではありません。部長の上野は「元手30万円を3倍に増やせ」というとんでもない指令を出します。実家が喫茶店の元山を中心に、新入生たちは不眠不休で「奇跡の味」と称されるラーメン作りに没頭。途中、ライバルである「PC研」からの妨害を受け、元山が拉致されるという事件も発生しますが、上野が愛車のオフロードバイクで駆けつけ、見事救出します。ラーメン店は大成功を収め、目標金額を達成するのでした。
学祭の後、上野たちは日頃の行いがたたってか、教授から町おこしイベントの「ロボット相撲大会」への出場を命じられます。渋々ながらも、部員たちは総力を挙げてロボットを製作。操縦担当の池谷を中心に、新入生たちが奮闘します。大会当日、「キケン」チームは快進撃を見せますが、決勝戦で強力な相手に苦戦。絶体絶命のピンチに、上野が出した指示はなんと「自爆」。壮絶な引き分けに持ち込み、会場を沸かせ(そしてまた教授に追われ)るのでした。物語の最後は、数年後、社会人になった元山が妻と共に母校の学園祭を訪れるシーンで締めくくられます。
小説「キケン」の長文感想(ネタバレあり)
いやはや、この「キケン」という物語、何度読んでも最高に面白いんですよね! まるで、昨日のことのように、あの成南電気工科大学のめちゃくちゃだけどキラキラした日々が目に浮かぶようです。
物語は、主人公の元山が、奥さんに「あなたの学生時代って、どんなだったの?」と聞かれて、少し照れくさそうに、でもどこか誇らしげに語り始める、という形で進んでいきます。この「過去を回想する」というスタイルが、また良い味を出しているんですよ。破天荒で、今思い返せば「よくあんなことしてたな…」と冷や汗が出そうな出来事も、元山のフィルターを通すと、なんだか甘酸っぱくて、かけがえのない青春の1ページとして輝いて見えるんです。読んでいるこっちまで、自分の学生時代を思い出して、ちょっとセンチメンタルな気分になったりして。
まず、キャラクターがとにかく魅力的! 特に、二回生の二人、部長の上野と副部長の大神。このコンビが強烈すぎます。上野は、小学生の頃から爆薬作りに手を染め、自宅の庭にプレハブ小屋を建てて住んでいるほどの火薬マニア。「成南のユナ・ボマー」なんて物騒なあだ名がついてるくらいですから、その危険人物っぷりは推して知るべし、ですよね。学内でオフロードバイクを乗り回したり、新入生歓迎と称して爆破実験をしたり…。普通に考えたら、絶対に関わり合いたくないタイプ(笑)。
でも、ただの危ないやつじゃないのが、上野のすごいところ。めちゃくちゃな行動の裏には、彼なりの筋道というか、信念みたいなものがあって、仲間を思う気持ちは人一倍強いんです。学祭でPC研に拉致された元山を助けに行くシーンなんて、本当にカッコいい! バイクで相手を追い詰める姿は、まさにヒーローそのもの。普段の奇行とのギャップに、思わずキュンとしてしまう読者も多いんじゃないでしょうか。
そして、副部長の大神。「大魔神」の異名を持つ、いかつい風貌。上野の無茶な行動を唯一止められる(こともある)存在として、部にとって欠かせない人物です。普段は寡黙で、その威圧感から新入生たちに恐れられているんですが、実は意外と不器用で、優しい一面も持っているんですよね。女子大生からラブレターをもらって、柄にもなく舞い上がったり、失恋して落ち込んだり…。そんな人間らしい姿を見ると、なんだか親近感が湧いてきます。部員たちが、傷心の大神をみんなで慰めるシーンは、読んでいて心が温かくなりました。「キケン」のメンバーたちの、不器用だけど温かい絆が感じられる名場面だと思います。
新入生コンビ、元山と池谷もいい味出してますよね。元山は、実家が喫茶店ということもあってか、常識的で気配りができるタイプ。最初は上野たちの破天荒ぶりに戸惑いながらも、持ち前の真面目さと責任感で、学祭のラーメン作りでは見事なリーダーシップを発揮します。彼の成長ぶりは、この物語の見どころの一つと言えるでしょう。一方の池谷は、田舎育ちのおおらかな性格。肝が据わっていて、どんな状況でもあまり動じない。ロボット相撲では、見事な操縦テクニックを披露します。この対照的な二人が、互いに支え合いながら「キケン」という特殊な環境に馴染んでいく様子は、読んでいて微笑ましいです。
物語の構成も秀逸ですよね。各エピソードが、それぞれ独立した短編としても楽しめるくらい面白いんですが、全体を通して読むと、ちゃんと一本の大きな青春物語として繋がっている。
最初の「部長・上野直也という男」のエピソード。ここで、読者は「キケン」という部活が、いかに普通じゃないかを思い知らされます。新入生歓迎の爆破実験なんて、普通じゃ考えられない! でも、このぶっ飛んだエピソードがあるからこそ、「キケン」の世界観に一気に引き込まれるんですよね。文字で読んでいるだけなのに、爆発の閃光や轟音が、まるで目の前で起こっているかのように鮮やかに想像できてしまう。有川さんの描写力には、本当に脱帽です。
次の「副部長・大神宏明の悲劇」。これは、正直に言うと、他のエピソードに比べると少し毛色が違うかな、と感じる部分もあります。大神の恋愛話なんですが、他の破天荒なエピソードと比べると、ちょっとしっとりしすぎているというか…。もちろん、大神の意外な一面が見られたり、部員たちの絆が深まったりする重要なエピソードではあるんですが、個人的には、もう少し「キケン」らしい、ハチャメチャな要素があっても良かったかな、なんて思ったりもします。でも、これも含めて「キケン」の魅力なのかもしれませんね。どんなに強面で破天荒な男たちだって、恋に悩んだり傷ついたりする、普通の人間なんだな、と。
そして、学祭のエピソード「三倍にしろ!」。これはもう、最高に熱い! 学祭って、学生時代の特別なイベントですよね。準備期間のワクワク感、当日の忙しさ、終わった後の達成感…。そんな学祭の「あるある」が、これでもかというくらい詰め込まれています。しかも、「キケン」の場合は、ラーメンの味を追求し、売り上げ目標達成のために不眠不休で奮闘するという、まさに青春の汗と涙が詰まった展開。元山が中心となって、一年生たちが必死に頑張る姿には、胸が熱くなります。PC研の妨害というトラブルも、物語を盛り上げるスパイスになっていますよね。上野の救出劇も含めて、本当にドラマチックなエピソードです。
「勝たんまでも負けん!」のロボット相撲大会も、これまた良いんですよ。町おこしの小さな大会、という設定がまたいい味を出しています。普段、大学内でやりたい放題やっている「キケン」が、教授の命令で、ちょっと地味な(失礼!)大会に出場させられる。でも、やるからには本気! 一年生たちが中心となってロボットを作り上げ、池谷が操縦する。決勝戦での苦戦、そして上野のまさかの「自爆」指示! 結果は引き分けでしたが、彼らの全力のぶつかり合いは、勝敗を超えた感動を与えてくれます。なんだかよくわからないけど、ロボット同士がぶつかり合うのって、見ているだけでワクワクしませんか? あの、男子特有の、無意味だけど熱い衝動みたいなものが、このエピソードには詰まっている気がします。まるで、子供の頃に夢中になった秘密基地での冒険のような、そんな興奮と高揚感がありました。
そして、最終話「落ち着け。俺たちは今、」。数年後、社会人になった元山が、妻と一緒に母校の学祭を訪れる。そこには、かつての熱狂とは違う、少し落ち着いた時間が流れています。でも、「キケン」の部室(というか、たまり場になっている教室)の黒板には、卒業した仲間たちの近況や、同窓会の連絡が書き込まれている。結婚して落ち着いた(!)上野や、他のメンバーたちの名前を見つけて、元山は懐かしさと、少しの寂しさと、そして変わらない仲間との繋がりを感じるんです。このラストシーン、本当にグッときます。青春時代は、いつか終わりを迎える。でも、そこで過ごした時間や、育んだ友情は、決して色褪せることはないんだな、と。読み終わった後、自分の学生時代を思い出して、胸がいっぱいになりました。
有川さんが後書きで書かれていた、「男の子ばかりの集団の面白さ」を描きたかった、という言葉。まさに、この「キケン」は、その魅力が存分に発揮されている作品だと思います。もし、この物語にヒロイン的な女子学生が登場していたら、きっと全然違う雰囲気になっていたでしょう。もちろん、恋愛要素のある青春物語も素敵ですが、この「キケン」のような、男子学生たちの、ちょっとおバカで、暑苦しくて、でも最高にカッコいい友情物語は、また格別な魅力がありますよね。彼らの間に流れる、言葉にしなくても分かり合えるような、独特の空気感。それが、読者の心を掴んで離さない理由の一つなんじゃないでしょうか。
読みやすい文章と、テンポの良い展開で、一気に読めてしまう。でも、読み終わった後には、爽快感と、ちょっぴりの切なさと、そして明日への活力が湧いてくるような、そんな不思議なパワーを持った作品です。理系の大学生たちの、ちょっとマニアックな日常を描いているのに、なぜか普遍的な青春の輝きを感じさせてくれる。それは、登場人物たちが、不器用ながらも自分のやりたいことに全力でぶつかり、仲間たちと本気で笑い、悩み、助け合っているからなんだと思います。
「キケン」は、私にとって、何度でも読み返したくなる、大切な一冊です。読むたびに、新しい発見があったり、違う部分で感動したりするんですよね。まだ読んだことがない方は、ぜひ一度手に取ってみてください。きっと、あなたも「キケン」の虜になるはずです!
まとめ
有川浩さんの小説「キケン」は、成南電気工科大学の「機械制御研究部」、通称「キケン」を舞台にした、男子学生たちの破天荒で熱い青春物語です。火薬マニアの部長・上野や強面の副部長・大神といった強烈な先輩たちと、新入生の元山や池谷たちが繰り広げる日常は、危険と隣り合わせながらも、笑いと友情に満ちています。
物語は、爆破実験まがいの新入生歓迎会から始まり、学園祭でのラーメン店経営、ロボット相撲大会への出場など、様々なエピソードを通して、「キケン」メンバーたちの絆が深まっていく様子を描いています。特に、男子だけの集団ならではの独特のノリや、不器用ながらも互いを思いやる姿は、この作品の大きな魅力と言えるでしょう。読んでいると、彼らの熱量に引き込まれ、自分の青春時代を思い出すような、そんな感覚になります。
破天荒な出来事の連続にハラハラドキドキさせられながらも、読み終わった後には、爽快感と温かい気持ちが心に残ります。個性的なキャラクター、テンポの良いストーリー展開、そして胸を打つ友情。青春小説が好きな方はもちろん、何か面白い読み物を探している方にも、自信を持っておすすめできる一冊です。ぜひ、「キケン」な彼らの世界を覗いてみてください。