小説「か「」く「」し「」ご「」と「」のあらすじを物語の核心に触れる部分も含めて紹介します。長文で作品を読んだ私の思いも書いていますのでどうぞ。住野よるさんの作品は、「君の膵臓をたべたい」をはじめ、青春のもどかしさや輝き、そしてその裏にある切なさや複雑な感情を描くことで知られていますね。この『か「」く「」し「」ご「」と「』も、その例に漏れず、読む人の心を掴む魅力があります。

物語の中心となるのは、5人の高校生たち。彼らは一見すると普通の、仲の良いグループなのですが、それぞれが誰にも言えない、ちょっと特別な「秘密」を抱えています。それは、他人の感情や状態が、普通の人には見えない形で認識できてしまう、という特殊な能力です。この設定が、彼らの日常や人間関係に、独特の彩りと深みを与えています。

この記事では、まず彼らがどのような秘密を抱え、どんな高校生活を送っているのか、物語の筋道を追いながら詳しくお伝えします。そして、その物語を読んで私が何を感じ、考えたのか、物語の結末にも触れながら、じっくりと語っていきたいと思います。読み進めるうちに、あなたもきっと彼らの「かくしごと」の世界に引き込まれるはずです。

彼らの抱える能力は、便利なようでいて、実はとても厄介なものかもしれません。人の本心が分かってしまうことで、かえって傷ついたり、悩んだりすることも多いのです。そんな彼らが、友情や恋愛、自分自身とどう向き合っていくのか。その過程を、ぜひ一緒に見届けていただけたら嬉しいです。それでは、物語の世界へご案内しましょう。

小説「か「」く「」し「」ご「」と「」のあらすじ

『か「」く「」し「」ご「」と「』は、同じ高校に通う男女5人の視点が入れ替わりながら進む物語です。主人公となるのは、京、ミッキー、パラ、ズカ、エルという、個性的なニックネームで呼び合う仲良しグループ。彼らは、それぞれが他人の感情や状態を特殊な形で認識できる「能力」を持っていることを、お互いに隠しながら日々を過ごしています。

大塚京(京)は、人の気持ちが頭上の「?」「!」「、」「。」といった記号で見えます。ある時、隣の席の宮里(エル)が不登校になったことを気に病みますが、なかなか行動に移せません。実は、京の何気ない一言が原因だったのですが、元気な三木(ミッキー)の仲介で誤解が解け、エルは再び学校へ来られるようになります。

三木(ミッキー)は、人の感情が心臓付近の「+」「-」のバーで見えます。明るくヒーローに憧れる彼女は、文化祭のヒーローショーで主役を務めますが、本番で緊張からセリフを忘れてしまいます。しかし、その異変にいち早く気づいた黒田(パラ)のアドリブによって、ショーは無事に成功します。

黒田(パラ)は、人の鼓動を見ることができます。彼は、クラスメイトの高崎(ズカ)の本性を能力で見抜いており、友人であるミッキーにズカが近づかないよう、修学旅行中も警戒しています。修学旅行での出来事を通じて、パラとズカは互いの本音をぶつけ合い、誤解していた部分があったことに気づきます。

高崎(ズカ)は、「喜」「怒」「哀」「楽」の感情が、それぞれトランプの「スペード」「ダイヤ」「クラブ」「ハート」のマークとして見えます。ある春の日、お花見に集まった際、エルの頭上に「哀」のマークが浮かんでいることに気づき、心配します。二人きりになった時にエルから打ち明けられた悩みを聞き、ズカは自身の秘密を明かすことで彼女を励まします。

宮里(エル)は、人の恋心が矢印で見えます。彼女は、京とミッキーがお互いに好意を寄せていることを能力で見抜いていますが、当人たちはそのことに気づいていません。些細なすれ違いから二人の関係がこじれそうになった時、エルは二人の恋を成就させるために奔走します。そして、この経験を通して、人はそれぞれ違う役割、「各仕事」を持っているのではないかと考えるようになります。物語は、彼らが互いの「かくしごと」を抱えながらも、友情を深め、少しずつ成長していく姿を描いています。

小説「か「」く「」し「」ご「」と「」の長文感想(ネタバレあり)

さて、ここからは『か「」く「」し「」ご「」と「』を読んだ私の率直な思いを、物語の核心、つまり多くの人が知りたがるであろう結末部分の内容にも触れながら、詳しく語っていきたいと思います。まだ読んでいない方、結末を知りたくない方は、どうぞご注意くださいね。

まず、この物語を読んで最初に感じたのは、「特殊能力があっても、高校生の悩みや感情の本質は変わらないんだな」ということでした。彼らは人の感情が見えるという、普通ではありえない力を持っています。人の好意や悪意、喜びや悲しみ、疑問や納得、そういったものが記号やマーク、バー、矢印、鼓動として視覚化される。一見すると、人間関係において非常に有利な力のように思えますよね。相手の本心が分かれば、誤解やすれ違いも少なくなるはずだと。

でも、物語を読み進めていくと、彼らがその能力ゆえに、かえって悩んだり、苦しんだりしている姿が描かれます。京は、相手の疑問符(?)が見えるからこそ、自分の言動が相手を不安にさせていないか過剰に気にしてしまう。ミッキーは、感情のプラスマイナスが見えるから、周りの空気を読んで明るく振る舞おうとしすぎる。パラは鼓動が見えることで、人の隠れた緊張や嘘を感じ取り、疑心暗鬼になることもある。ズカは感情のマークが見えすぎて、人の本心を知ることに疲れを感じている。エルは恋心の矢印が見えるからこそ、他人の恋愛に干渉しすぎてしまったり、自分自身の感情に鈍感になったりする。

結局のところ、人の心が見えたとしても、それで全ての問題が解決するわけではないんですよね。むしろ、見えすぎることで新たな悩みが増える。相手の感情が分かっても、その理由までは分からない。分かったとしても、どうすれば相手を幸せにできるのか、どうすれば自分が傷つかずに済むのか、その答えが簡単に見つかるわけではない。彼らが抱える葛藤は、能力を持たない私たち読者が日常で感じる人間関係の難しさやもどかしさと、根っこの部分では繋がっているように感じました。だからこそ、彼らの悩みや喜びが、とても身近なものとして心に響いてくるのかもしれません。

特に印象的だったのは、登場人物たちが自分の能力を「隠し事」として抱え、それを他のメンバーに知られていないと思い込んでいる点です。同じような秘密を抱える仲間がすぐそばにいるのに、それに気づかず、孤独を感じている。この設定が、思春期特有の「自分だけが周りと違うのではないか」「誰も本当の自分を理解してくれないのではないか」という感覚と重なって、切なさを感じさせます。もし、彼らがもっと早くお互いの秘密を打ち明けられていたら、もっと楽になれたのかもしれない。でも、その「隠し事」があるからこそ生まれるドラマや、相手を思いやる気持ちの描写が、この物語の魅力にもなっているんですよね。

物語の後半、特にエルの視点で語られる「各仕事」という考え方には、深く考えさせられました。「隠し事」だと思っていたタイトル『か「」く「」し「」ご「」と「』に、「各々の仕事・役割」という意味も込められているのではないか、というエルの気づき。これは、この物語の重要なテーマの一つだと思います。私たちは、意識するしないにかかわらず、家族や友人、クラスや職場といったコミュニティの中で、何らかの役割を担っている。ムードメーカーだったり、聞き役だったり、まとめ役だったり、あるいは、誰かの支えになることだったり。

エルは、自分たちが持っている特殊な能力も、それぞれの「各仕事」を果たすための一つの要素なのかもしれないと考えます。人の気持ちが分かるからこそ、誰かを励ましたり、誤解を解いたり、そっと寄り添ったりすることができる。それは、一見すると特殊な力だけれど、見方を変えれば、その人に与えられた個性であり、役割なのかもしれない、と。この考え方は、自己肯定感が低かったり、自分の存在意義を見出せずに悩んだりしている人にとって、一つの救いになるかもしれません。自分には自分の役割がある、自分は誰かの役に立っているのかもしれない、と思えることは、とても大切なことだと思います。

ただ、一方で、この「各仕事」という考え方に、少しだけ違和感を覚えたのも事実です。特に、まだ自分自身を模索している段階の高校生にとって、「役割」という言葉は、少し窮屈に感じられることもあるのではないでしょうか。周りから期待される役割を演じ続けることに疲れてしまったり、本当の自分を見失ってしまったりする危険性もある。友達関係において、「役割」を意識しすぎるのは、少し不自然な気もします。本当の友達なら、役割なんて気にせずに、ありのままの自分でいられる関係性が理想ではないかと。

もちろん、エルが言う「各仕事」は、他者との関わりの中で自然に生まれてくる、ポジティブな意味合いでの役割なのだと思います。自分の個性を活かして、誰かのために何かをすることで、コミュニティ全体が支え合っていく。そういう相互扶助の精神は、とても美しいものです。しかし、それが「こうあるべき」という固定観念やプレッシャーになってしまうと、途端に息苦しいものになる。この物語の登場人物たちは、最終的に自分たちの能力や役割を受け入れ、前向きな関係性を築いていきますが、現実世界では、もっと複雑な状況も多いだろうな、と感じました。

物語の終盤、京とミッキーの関係がどうなるのか、読者としてはドキドキしながら見守っていました。お互いに好意を持っているのに、能力があるからこそ相手の些細な反応に一喜一憂し、なかなか素直になれない二人。エルの助けもあって、最終的には気持ちが通じ合うのですが、その過程がとても微笑ましく、青春だなあと感じました。他のメンバーも、それぞれの葛藤を乗り越え、少し大人になっていく。特殊な設定でありながら、描かれているのは普遍的な成長物語なんですよね。

そして、ラストシーン。「エピロオグ」での締めくくり方は、読後に爽やかで、どこか切ない余韻を残してくれました。まるで、キラキラした青春の一場面を覗き見させてもらったような、少しくすぐったい気持ちになります。彼らの未来がどうなるのか、明確には描かれていませんが、きっとこの経験を糧にして、それぞれの道を歩んでいくのだろうなと、温かい気持ちで見送ることができました。この読後感の良さも、住野よる作品の魅力の一つですね。

また、作品全体を通して感じたのは、文体の優しさです。登場人物たちの心情は、時に揺れ動き、傷つきもしますが、それを描く言葉遣いが非常に柔らかく、読者を不必要に傷つけない配慮が感じられます。ドロドロした感情や、読むのが辛くなるような過激な描写は抑えられていて、どこか透明感のある世界観が保たれています。この優しい文体が、物語全体の淡い水色のようなイメージを作り出しているのかもしれません。表紙のイラストも、その雰囲気にぴったり合っていて、作品世界への没入感を高めてくれます。

この『か「」く「」し「」ご「」と「』は、特殊な能力というフックがありながらも、描かれているのは等身大の高校生たちの悩み、友情、恋愛、そして成長です。「隠し事」と「各仕事」という二つのテーマが巧みに織り交ぜられ、読者に様々なことを考えさせてくれます。人の心が見えたらどうなるのか? 自分に与えられた役割とは何なのか? 本当の自分とは? 読み終えた後も、心の中に問いが残り、じんわりと考え続けてしまうような、そんな深みのある作品でした。

もし、あなたが今、人間関係に悩んでいたり、自分の居場所や役割について考えていたりするなら、この物語はきっと心に響くものがあると思います。特殊能力というフィルターを通して描かれる彼らの姿は、私たち自身の姿を映し出す鏡のようでもあります。彼らが悩みながらも前に進んでいく姿に、勇気づけられる人もいるかもしれません。

住野よるさんの描く、少し不思議で、切なくて、そして温かい青春物語。まだ手に取ったことがない方は、ぜひ読んでみることをお勧めします。きっと、あなたの心にも、何か大切なものが残るはずです。

まとめ

住野よるさんの小説『か「」く「」し「」ご「」と「』について、物語の筋道や結末に触れつつ、私が感じたことをお話ししてきました。この作品は、特殊な能力を持つ5人の高校生たちが、それぞれの「隠し事」を抱えながら友情や恋愛、そして自分自身と向き合っていく姿を描いた物語です。

人の感情が見えるという能力は、一見便利そうですが、彼らにとっては悩みや葛藤の原因にもなります。それでも、彼らは不器用にぶつかり合い、支え合いながら、少しずつ成長していきます。その姿は、特殊な設定でありながらも、私たちの日常と重なる部分が多く、共感を呼びます。

物語の重要なテーマである「隠し事」と「各仕事」。秘密を抱えることの切なさと、それぞれが持つ役割の大切さ。この二つの意味が込められたタイトルが、物語に深みを与えています。読み終えた後には、爽やかさと共に、人間関係や自分の在り方について、改めて考えさせられる余韻が残ります。

住野よるさん特有の優しい文体と、青春のきらめき、そしてほろ苦さが詰まった『か「」く「」し「」ご「」と「』。人間関係に悩んだり、自分自身を見つめ直したいと思ったりしている方に、特におすすめしたい一冊です。きっと、登場人物たちの姿に、何かを感じ取っていただけると思います。